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農家として田村での暮らしを選んだのは、「お腹も心も懐も豊かにできる仕事」と思えたから。 狼ノ神農園代表・白岩洋さん

コラム

2021.02.24


「会社員も農家も、仕事へのスタンスは同じ」
田村での就農2年目を迎える若手農家の現在地

東京での充実した生活から一転、2019年に田村に帰郷した白岩さん。現在はミニトマトのハウス栽培を柱にした農家2年目の春を迎えようとしていますが、当初は農業をする事は考えていなかったそうです。現在そして将来を客観的に見据え、農家という生き方を選択した経緯、そして現在取り組んでいる現在地を伺いました。


‐東京で映像制作の仕事を長年なさっていたのに、なぜ故郷の田村に戻ってミニトマトの栽培を始められたのでしょうか? 今に至るまでの道のりをお聞かせください。

白岩さん:高校時代での吹奏楽部の活動や授業課題でCG製作などに触れる中で、自分の可能性を人を楽しませる分野で試してみたいと思ったんです。それでやりたい事はまずはやってみようと、東京で芸術や情報の勉強ができる大学に行く事にしました。都会での生活も、試してみたかったというのもありますね。大学卒業後は映像の編集や配信の仕事に就いて、14年間お世話になりました。管理職として責任ある仕事もさせてもらって特に職場が嫌だった訳ではなく、そのまま続けていてもよかったんです。
 なぜ故郷へ戻って来たかというと、長男なんで実家をどうするかという事はいつも頭の片隅にはありました。東京での生活を続けながら実家を別荘として利用するとか、親が居なくなった後に戻るとか色々考えた時に、早目に戻って両親が元気なうちに手伝ってもらいつつ、自分の思い通りにできる環境を整えた方がいいと思ったんです。
 今楽して後に大変な思いをするか、今苦労して後々を楽するか。どっちを選択すれば総合的に楽なのか考えて、故郷に戻ることにしたんです。

「実家の裏山を造成し、新たに栽培ハウス棟を建設。今年から稼働する。」

‐私のイメージだと農業は、白岩さんがおっしゃられる“楽”というイメージからは真逆にある仕事じゃないかと思ってしまうのですが。

白岩さん:最初から農業をやりたかったかと言うと…微塵もないです(笑)総合的に客観的に考えて、ここで暮らすための生業として選んだんです。大切な判断を誤らないためにも、心はニュートラルにしておく。「いかに普通で居られるか」が、人生のテーマです。
 戻ろうと決めた時はウィスキー製造業の従業員も考えたんですが、思いつきで具体性やリアリティーが考えられず、自分がそこで働いているイメージが湧かなくて。それで祖父がタバコの専業農家していたので、土地や機械などある物を活かせないかと思ったんです。家の周囲も休耕地が増えていますので、戻ってきて生活の場にするのであれば、農業をしながら綺麗にしたいなと考えました。
 何より決め手になったのは、新規就農者への手厚い支援が受けられる体制(※)ですね。今のタイミングで田村で就農する事は、技術的にも金銭的にもアドバンテージがあると思い、農業もアリかなと思ったんです。

‐今は冬の真っ只中(2月上旬)ですが、作業的には何をしているのですか? またなぜミニトマトの栽培を選んだのですか。

白岩さん:春に向けてミニトマト栽培の準備ですね。冬場もハウスを温めて栽培している農家さんも居ますが光熱費がかかります。2年目の始めたばかりの農家としては、春から秋の栽培に注力して、経営の土台を固める事が先決かなと思っています。
 当初はミニではなく、普通のトマトを作ろうとしていたんです。農業研修でも技術を習っていましたし、売り方、品種、出荷時期など自分で選択できる幅が広い事、また田村でも作っている人も多いので、安心だなと思ったんです。もう少し客観的に考えると、今の消費傾向だとすぐに食べられるミニの方が消費者には喜ばれていて、また収量が多い分人手は必要ですが、収益性が高くなる将来性があるなと思い直しました。
 今は少量多品種でミニを栽培している農家さんも多いですが、私は単一品種を栽培して、農協さんにより多く卸す事を当面の目標にしています。まずは収量を増やし、沢山売る事に注力していきたいです。
 最初は思ったんですよ。色々な品種や農産物を作りたいとかね(笑)けど自己満足で終わってもしょうがないですし、やっぱり農業で儲かりたいんです。儲けれると思ったから、始めた部分もありますしね。まずは原点に、こだわっていこうと思っています。

「今は苗を吊るす準備をしています。段取りもそうですが農業は全てが自分の裁量。そこに魅力も感じますし責任を感じます。“リアル人生ゲーム”ですね(笑)」

‐現在はどのような体制で栽培を行っているんですか?

白岩さん:私が栽培管理者として統括していますが、繁忙期は親戚とかお手伝いをしてくれる方が居なくては回りません。朝だけとか夕方だけとかピンポイントで入りたい方は、意外と多いんですよ。スケジュールを上手く組み合わせながら、お手伝いをお願いしています。
 よく農業では人手がいないと言いますが、希望者の要望をきめ細かく汲んでいけば、点が面になると実感しています。朝6時に来て8~9時に上がれば、一日の予定に支障はないじゃないですか。夏場は涼しい時間に作業できますしね。そういう意味では、人員的に恵まれているから、ミニトマト栽培を始められたのかもしれません。

‐先ほど儲けられる農業というお話があったと思うのですが、先に見据えるのは法人化などの規模拡大なのでしょうか。

白岩さん:将来的にそうなればという想いはありますが、まずは先ほど述べた土台固めですね。問題は冬の仕事作りだと思います。冬場は作物が育ちにくく、その期間の収入が課題ですね。
 まずは、経営の柱になるミニトマトの作業を優先させたいです。冬の作物をやるとなると、当然夏場から準備が必要です。そうするとミニトマトの繁忙期に、仕事が重なってしまうんです。それでどちらもダメになったら、元も子もありません。ですので常勤雇用や法人化は、現状あまり考えていません。

‐確かに今年が2年目ですからね。経営の土台作りが優先ですよね。言わば畑違いの農業への転身の中で、仕事に対しての考え方や違いを感じることはありますか?

白岩さん:究極、全く変わっていないと思っているんですよ。どの仕事でも「いつまでに何をやるか、どういう状況でやるのか」だと思うんです。ただ扱う物が映像から農産物に変わっただけなんで、考え方は同じなんです。
 だから自分は、地域の方とか同業者の方を“エア(仮想の)上司”と想定しているんです(笑)私みたいなUターンして就農した身だと、作業や暮らしぶりを色々と見られているんです。ちゃんとやっていると周囲に認識されないと、自分がいくら儲かったとしても、やっぱり評価は得られない。そんな周囲や業者さんとの人間関係作りなど、会社員時代と何ら変わりはないんです。
 農業を続ける事に関して、なるべく不安とかギャップを感じたくないし、やっぱり失敗はしたくない。だからこそ自分のしている仕事への客観的な視点は、見失わないようにしていたいです。今まで働いてきた会社っぽい考え方を取り入れて、自分を成長させるために最適な環境を作ろうとしている部分もあると思います。

‐面白い考え方ですね。状況を顧みず、自分の考えに引っ張られ過ぎる時が事業主には多々ある事。自身の普通の状態(客観性)を保ち、選択を誤らないひとつの方法ですね。それでは今話して頂いた考え方を土台に、これからの生活を築いていく地域・田村について思う事はありますか?

白岩さん:農業を一生懸命やっていくという事は、もうそれ自体が地域に関わっていく事だと思うんです。正直今は「地域へ貢献する」なんて、おこがましくて言える立場にない(笑)日々の仕事の積み重ねる中で、地域が抱える雇用や教育などに重なり合った部分で、何か力になれたらいいなと思っています。例えば、地域の若手農家で組織している「アグリクリエイターズたむら」では、勉強会や情報交換、直売イベントなど互いに刺激し合って高めていければ、それ自体が地域へ自分ができる事になっているのではないかと思います。今は農業をやり続ける事、それでいいと思っています。
 農業経営と別の話で言えば、東京で暮らしていて、意外と田舎がない人が多いなと感じていました。両親が上京して首都圏に暮らしを築き、その子どもくらいの世代が自分達なんですね。まだ農業を始めて間もないしコロナの影響で難しいですが、前職でアウトドア好きな仲間も、田村に遊びに来たいと言ってくれています。そんな人達が、あそこには白岩さんがいて心身共にリラックスできる場所だと思ってくれる“みんなの田舎”に、なれればいいなとは思っています。祖父の住んでいた古民家を、今後遊びの拠点になるようにリノベーションできればと構想しています。
 最初に戻ってしまいますが、仕事がどんな職種であっても、都会でも田舎でも、やっぱり「当たり前(普通)」で自分自身居られて、楽しく生活できる事が一番だと思います。農業は「見えるようで、見えない。見えないようで、見える」曖昧さ付き合っていく面白味があると感じています。それを積み重ねていくためにも、やるべき仕事を日々、普通こなす事が一番の楽で着実な道筋だと思うんです。その歩みの先に、休耕地の整備や規模拡大、みんなの田舎作りがあると思っています。

※「田村地域就農支援プロジェクト」では、首都圏や仙台、福島での就農フェアへの出展や相談など新規就農のサポートを定期的に実施。プロジェクトでは就農希望者をの研修受け入れから就農まで一貫したサポートを行っている。白岩さんも就農にあたり、研修や経営計画の作成などのサポートを受けた。


「来年の今頃は、露地栽培のふきのとうを作っている予定です。ミニの作業の支障にならない程度に準備していきます」と白岩さん。準備や計画を重んじながら、ビジネスとして農業を選択したクレバーな一面と、ふきのとう栽培のように着実な挑戦への好奇心、その両面が垣間見れました。
 生業としての仕事と、やりがいや理念としての仕事。その間で「普通にこなす」バランス感覚を心の中心に置く白岩さん。リモートワークや地方回帰など働き方が変化を迎えている今に、参考になる視点を与えてくれるお話でした。

<狼ノ神農園>
Instagram@hiroshiraiwa
住所:福島県田村市常葉町小檜山字狼ノ神8

ライター:江藤 純